サーヴァント総数240騎、音源数約40,000個!
『FGO』のサウンドを支える「CRI ADX2」と効果音収録スタジオを初公開

2015年7月30日のリリース以来、重厚な世界観とストーリーで人気を博しているスマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』 )。本作はこれまでに実装された240騎のサーヴァント(『FGO』に登場する特定のキャラクターの総称)全てにオンリーワンの効果音が作成されており、バトル時やシナリオ用のボイスも全てユニークであるため、音源数が非常に多い作品となっています。

今回は、本作のサウンド開発を担当したディライトワークス 白山俊太郎氏、西村和真氏、椎橋朋弘氏の3名に、 『FGO』サウンドのコンセプトや効果音作成におけるフォーリーレコーディングについて、そして具体的な実装や圧縮で広く活用されたミドルウェア「(*)CRI ADX2(以下、ADX2)」の使用感を訊いていきます。

(*)※CRI ADX2:CRI・ミドルウェア製のサウンドミドルウェア。ゲーム開発で要求される多様なサウンド演出を手軽に実現することが可能

ーー本日は宜しくお願いします。まずは皆さんのプロフィールを教えて下さい。

西村:西村と申します。私は2015年にプランナーとして入社し、現在はADX2を用いたサウンドの実装部分を担当しています。サウンド部発足の流れは後ほど説明しますが、私自身はサウンド部がまだ無かった頃から開発に参加をしておりました。その後、正式にサウンド部を作るとなった際、今のように専任となりました。

サウンド部 サウンドプランナー 西村和真氏

白山:サウンド部マネージャーの白山です。以前は別のゲーム会社で効果音とBGMを制作していましたが、より大きなタイトルに携わりたいと思い、2015年にディライトワークスに入社しました。現在は効果音の制作を中心に業務を行っています。

椎橋:エンジニアの椎橋です。現在はサウンド部のエンジニアとして業務を行っており、実装や制作のほかに、チーム全体で必要となるような内製ツール開発を行っています。もともとは一般的なIT系企業でサーバー周りのプログラムなどを担当していましたが、2017年に白山からの誘いで入社しました。

ーー現在、サウンド部は何名が在籍していますか?また、それぞれどういった役割分担になっていますか?

西村:全体では4名です。効果音制作を担当する白山、私、西村がADX2での実装を担当、そしてエンジニアとして椎橋がいるほか、BGMの担当の天童という社員がいます。『FGO』のBGMについてはTYPE-MOONの芳賀敬太氏(KATE氏)に制作して頂いていますが、自社内でも制作可能な体制が整っています。

白山:効果音自体は1ヶ月に50から100個を目安に作成しています。と言っても、イベント時や年末になると一気に増えますので、毎月決まった数はありません。これまではシンセサイザーなどで制作するケースが多かったのですが、昨年、社内にフォーリースタジオを作ったことで、最近ではフォーリーによるレコーディングも増えています。

※フォーリー(Foley)とは、専用の録音スタジオといった具合で、足音や剣での攻撃音、衣服の衣擦れなどを収録していく。アーティストが演技をしながら効果音を作成する手法のこと。笊に入れた小豆をザーッと流すことで海の音を再現するなど、様々な手法が用いられる。

椎橋:私は実装の一部を自動化したり、実装したデータが本当に正しいかを確認するテストツールを開発したりといった形で、サウンド部に困ったことがあればそれを解決する何かを開発する、という立場です。

白山:椎橋はADX2での実装面に関わるツール以外にも、制作面を補助してくれる様々なツールを開発しています。CUBASEという作曲ソフトのロジカルエディターと呼ばれる機能の中で、バウンスを自動化してくれるツールを作ってもらったりと、細かい部分の自動化をお願いしていますね。

ーー先ほどフォーリースタジオの話題も上がりましたが、皆さんが考える「ここ最近で一番良かったと思うサウンド演出」があれば教えて下さい。

西村:最近で言うと、バレンタインのイベント時に実装された「紫式部」の宝具演出ですね。書道家・蒼喬氏による筆文字が演出内に含まれるのですが、この筆の音にこだわりました。

西村:この筆の音は、フォーリースタジオのドアを手の指で擦って収録したものです。スタジオは1月頃から稼働を始めましたので、実は紫式部がフォーリーサウンドを初起用したサーヴァントなんです。本を倒して攻撃する時の音も、読み終わった雑誌をスタジオ内に積み上げて、それを実際に崩して収録しています。今現在はアレキサンダーのモーション改修などでもフォーリーも使っていますし、アドベンチャーパートでの剣がシャキンッ!となる音ですとか、そういったものも自社内で収録する機会が増えてきました。

4月22日に行われたアレキサンダーのモーション改修では、宝具発動時の炎の効果音も再録したとのこと

紫式部のクイックカードのモーション「本を倒して攻撃」のサウンドは、椅子から雑誌を落としたものを収録している

先ほどの「雑誌を落とした音」がこちらのモーションの効果音に

剣戟や抜刀の際の音は、ヘラと火バサミを使用し再現

白山:これまでは既存の音源ライブラリを編集して作っていたりと、ほぼPCの中だけで行っていました。収録するとしてもハンディレコーダー止まりでしたので、今のように足音などもワンオフで収録できるような環境は制作側としてもありがたいですし、楽しいですね。


全サーヴァントの足音も個別で録音する徹底ぶり。女性サーヴァントの足音の場合は、女性にハイヒールを履いてもらいここで足踏みをする

これらの道具を用いて、『FGO』のサウンドは形作られている

ーー『FGO』はリリースから3年半ほど経ちましたが、ここで改めてサウンド部が発足した経緯と、サウンドに関する運営・運用について教えて下さい。

西村:弊社は今でこそ規模の拡大と組織化が進んでいますが、私が入社した当時はまだ数十人という規模で、サウンド専門の部署も無かったんです。ですから、プランナーの私がサウンドの実装を行っていました。その後、アセットの制作まで含めて自社で対応する方針となり、白山がサウンド専門として入社し、2人でサウンド部を発足しました。
ただ、先ほども申し上げた通りアセット数が膨大で、”1人が作る、1人が実装する”というだけの座組だと運用が難しい面もあって…次のメンバーとして、先にいた2人の工数を効率化し削減できる技術を持った椎橋をチームに誘いました。このメンバー構成は上手くいっていて、タイトルの大きさと比較して比較的少人数で運用出来ていると思います。

白山:補足すると、今は『FGO』だけではなく新規のゲームプロジェクトも始動していますので、実制作を担当する天童が入社して、4人になっています。現在、『FGO』は効果音とボイスデータを合わせると38,000個程度という規模感になっていますので、内製ツールによる工数削減は非常に重要と考えています。


『FGO』だけでなく新ゲームプロジェクトも控えている

ーーデータ総数としてはかなりのボリュームですね。この規模感であればミドルウェアは必須だと感じますが、採用に至った経緯を教えてください。

西村:『FGO』リリース直前だったと思います。「私のようなプランナーでも使いやすいミドルウェアはないか」と探していたところて、ADX2に行き着きました。試しに使ったところすごく感触が良くて、さらに圧縮率や音質など、総合的に判断して採用に至っています。

ーー使いやすい、というのは具体的にどういった点で感じられましたか?

西村:UIが直感的だったのが一番のポイントですね。ここに音を入れたら鳴るんだな、ここでカテゴリを設定するんだなとか、”何をどうすれば良いか”がすぐに分かるようになっていました。スマートフォン向けのタイトルは容量の限界があるので、ストリーミングタイプとメモリタイプの切り替えも簡単に設定できるなとか、他にも色々ありますが、UIの見やすさ・分かりやすさが第一印象としてありましたね。

白山:実務的なところだと、高い圧縮率は非常に恩恵を受けています。今はサーヴァント1体につきwav数だと60個前後、40MB程度というボリューム感になっていますが、これに対し独自コーデックHCA(*)で圧縮を行うと、1体につき大体3MB前後に収まります。
2019年のバレンタインイベントでは、全サーヴァントにフルボイス対応したのですが、あれは全部で5,870個、4.8GB分のボイスデータがあったんです。ただ、これもパッケージ化したところ289MBまで圧縮が出来ている。あとは48kHz/24bitでファイルへ書き出しているBGMは平均して40MB程度ですが、cpk(ADX2専用パッキングファイル)にまとめると1MB程度に収まります。

(*)HCA:CRI・ミドルウェア製の独自のサウンドコーデック。高音質を保ちながら、最大1/24までデータ量を削減する圧縮性能の高さが特長。


2019年バレンタインイベントでは全サーヴァントがボイス付きに。その容量、なんと4.8G!

椎橋:かなりの高圧縮なのですが、音質的なところは正直自分ではまったく差が分からないくらいです。

白山:音質面も本当に優秀だと思っています。実際に制作している側からしても、特に違和感はありません。DAWからのバウンスで音が変わってしまうよりも小さな差だな、と感じます。

ーー実制作のワークフローについて、もう少し詳しく教えて下さい。

白山:新規イベントやサーヴァントが追加されるごとに、社内から発注が来るような形です。効果音を制作し、TYPE-MOONさん、もしくはプランナーにOKを頂けたら、実制作を担当する私のフェーズは終わります。続いては西村がADX2のサウンドオーサリングツールでカテゴリやプライオリティレベル、品質などを決めていきます。ADX2上でビルドしたcpkファイルを『FGO』に実際に組み込む作業は、椎橋の作成したプログラムで自動管理されています。
また「ADX2で設定した情報が正しいか」をチェックするプログラムも自動的に走っていて、最終的に正常に再生されているかは椎橋の開発したサウンド専用のデバッグツールを用いてチェックしています。

椎橋:ビルドしたcpkファイルはゲームに組み込むまでは再生できないので、これをゲームと同じ状態で再生できるようにしたデバッグツールを作っています。Unityの上でのデバッグツールもありましたが、シーンの起動までに時間が掛かり、サウンドの確認のためだけに用いるのは実用的ではなかったので。制作からチェックまでの作業効率を上げるためのツールをいくつか開発していますね。


実装画面

ーー従来に比べて、ミドルウェアを活用したことで作業効率はどの程度上がりましたか?

西村:これはもう正直な話、9割以上は時間短縮ができたと思っています。効果音を制作して組み込んでチェックして、という一連の流れが、今は数分で終わる作業になっているので。というのも、ゲームが大規模化してくると、Unityによる待ち時間がどうしても多くなってしまいます。
主にシーンの読み込み時間やメタファイルの読み込みなどでしたが、とにかく「待ち」が多かったですし、『FGO』はイベントごとに枝分かれした別のプロジェクトになっているんですけど、その都度Unityの中身も変えないといけなかったので。この辺りに関して言えば、9割というか、99%短縮が出来ていますね。

白山:今はADX2を軸として、制作の流れがしっかりと出来ています。私が制作を行い、西村が音量調整なども含めた実装を行うと言った流れは、2人とも練度が上がった、慣れたという側面もありますが、昔と比べて本当にやりやすくなりました。

西村:サポート体制に関しても、使い始めた当時からスムーズかつ分かりやすい説明が返って来た印象があり、まったく知識がないプランナーでも時間を掛けずに作業が出来たという点では特に助かりました。


実装画面、ダッキング(*)処理

(*)ダッキング:複数の音を同時に鳴らす際に、より際立たせたい音を強調するために、その他の音のボリュームを調整する処理。 例)セリフが鳴っている間だけBGMのボリュームを下げ、セリフが終わるとBGMのボリュームを元に戻す。

白山:『FGO』はとにかくサーヴァントを大切にしているゲームです。僕自身は「そのサーヴァントで一番盛り上がるシーン」…つまり宝具を普段のバトルSEとギャップを付けるように工夫しています。我々もキャラクター性を理解して、それぞれのコンセプトを全体で共有して、とにかく盛り上がる部分を時間を掛けて作り込んでいます。

西村:私の方も、こうした流れを追って把握しています。「キャラクターにとって一番大切なところ」を全員が分かっているからこそ、実装の時にボリューム調整などもやりやすくなる。アセットを制作する担当と、実装の担当の向いている方向に相違があると、結局思ってもない演出になってしまう場合があるので、その点は強く意識していますね。

ーーありがとうございました。