SonicSYNCは『プロセカ』をどう進化させたのか―低遅延やリッチなサウンドに挑み続ける開発者の「こだわり」

2021年9月にリリース1周年を迎えたiOS/Android用リズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』。本作は初音ミクたちバーチャル・シンガーと20名の本作オリジナルのメンバーが現実世界と「セカイ」を舞台に多彩なシナリオを展開するリズム&アドベンチャーゲームとして人気のあるタイトルで、セガとColorful Paletteが共同で開発・運営をおこなっています。また、来年1月には『プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 1st - Link -』として初のオフラインライブイベントも告知されています。

iOS/Android向けのリズムゲーム開発では、端末性能やOSの特性によって音声遅延が生じる場合があり、「タップした瞬間にSEが再生される」という正常なプレイ感覚をユーザーに提供するためにはエンジニア側の多大なる努力が必須でした。本作では開発初期段階からCRI・ミドルウェアが提供するサウンド技術CRI ADXにおける「低遅延モード」を活用、さらにリリースから1周年を迎えた大型アップデートの際にはCRI・ミドルウェアの最新技術であるゼロ遅延機能「SonicSYNC(ソニックシンク)」を採用したバージョンをリリース。快適かつ爽快なプレイフィールを実現するための実装上の工夫やサウンドデザイン、そして随所にちりばめられた「こだわり」について、Colorful Paletteより本作のクライアントエンジニア大平真也氏とサウンドディレクター Yisoch氏にお話しを伺いました。


「世界観とシナリオを大切にする」本作のサウンド開発コンセプト

――自己紹介と、本作での担当業務を教えてください。

大平氏:クライアントエンジニアの大平です。本作ではアドベンチャーパートの基盤やシステム周り全般の実装を担当しています。また、音声遅延のチューニングや技術的対策なども行いました。

Yisoch氏:サウンドディレクターのYisochです。本作ではサウンド全般のディレクションのほか、BGM/SE制作も行っています。また、ADXでの実装も担当しています。

――『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のゲーム概要についてご紹介ください。

大平氏:初音ミクを中心としたバーチャル・シンガーと、彼女たちを取り巻くオリジナルキャラクターが本当の想いを見つけ、一緒に歌うというのがコンセプトとなるリズム&アドベンチャーゲームです。ボーカロイド楽曲は100曲を超え、難易度も5段階用意されているため、純粋にリズムゲームとしても楽しんで頂ける作品です。また、オリジナルキャラクターが初音ミクとの出会いをきっかけに成長していくという、彼女たちの道筋をストーリー上で体験できるのも本作の大きな魅力です。

Yisoch氏:シナリオパートに対してはイベントごとに新規BGMを制作しています。ユニットごとにアレンジの方向性を変えているので、是非その辺りにもご注目ください。例えば「Leo/need」というグループはバンド編成ですが、彼女たちがシナリオの中で試行錯誤しながら新しい楽曲を作っているシーンではシナリオ中心メンバーの楽器がフォーカスされるようなアレンジにしたり、MIXをラフにする(通常のBGMよりも“粗削り感”が出るような編集)などの工夫をしています。BGM単体の品質を高めるだけでなく、シナリオやビジュアルと合わさった時に最も効果的であるように制作しています。

大平氏:個人的に一番思い入れがあるのは「バーチャルライブ」機能です。キャラクターが成長した姿を最大限表現する場として、ユーザーが同じ時間に同じ場所(ゲーム内ルーム)に集まって同じライブを鑑賞するという機能になります。年始にはお正月ライブとして10万人以上が同時接続し、みんなでカウントダウンしたり、「あけおめ」の挨拶を言い合ったりと盛り上がりました。こうした体験は本作ならではのユニークなものだと思います。

――プロジェクトの開発期間およびサウンド業務に関わった人数を教えてください。

大平氏:プロジェクト自体は2018年から動いており、フェーズごとに人数規模は変わりますが、現在は全体で30~40名程度が関わっています。サウンドについてはYisochが1名で担当しています。

Yisoch氏:私はもともと2020年初頭から外部クリエイターとして本作に関わっていましたが、リズムゲームの開発経験があったこともあり、その数か月後には社内のサウンドデザイナーとして本格的に開発参加する形になりました。リズムゲームはタップSEの微調整などが必須であるため、社内にサウンドデザイナーがいるのが理想です。それまではクリエイティブを統括する飯塚とプロデューサーの近藤がサウンドの方向性も確認していましたが、私が開発中期にジョインしてからは全て私の方でサウンド面をディレクションしています。

――本作のサウンド開発におけるコンセプトについて教えてください。

Yisoch氏:シナリオに応じた、その雰囲気を壊さないような楽曲であることを前提に、「ユーザーのイメージする初音ミク」の時代を意識しています。2007年から2010年代における「あの時に流行ったサウンドはこうだったよね」というちょっとした懐かしさを開発初期は意識的に音作りに取り入れていました。

大平氏:リズムゲームの側面では、タップ音の気持ちよさも重要でした。SEを10回とかそういうレベルではなく、何十回も作り直して試行錯誤した記憶があります。

Yisoch氏:そうですね。iOS/Android向けゲームは毎日繰り返し遊んでいただくことになるので、気持ちよさだけでなく「疲れにくさ」も意識しています。例えばリズムゲームパートでは、クリティカルフリックと呼ばれる黄色いフリックは気持ちのいい音にして、他はあまり印象に残らないようなサウンドにしています。全部が全部ハッキリ聴こえてしまうと無意識に疲れてしまうので、何度プレイしても邪魔にならないような、それでいて気持ちいい音を聞くために繰り返し遊びたくなるような、そんなサウンドを意識しています。

――ちなみに、一部楽曲はボカロPに依頼するかたちになっていると思いますが、誰に何をお願いするかの選定もYisoch氏がやっているのですか?

Yisoch氏:シナリオをベースに楽曲を制作していますので、シナリオチームが出してくれたさまざまな情報をもとにジャンル選定などを行います。その後、セガさん側と協議をして、「こういった楽曲ならこのボカロPにしよう」などの選定を行っていきます。逆に、「このボカロPのテイストが合うから、こういう方向性のシナリオにしよう!」というスタートはほとんどありません。

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――ここからはリズムゲーム開発について教えてください。iOS/Android向けのリズムゲームを制作する時に苦労したところなどをお聞かせいただけますか。

大平氏:リズムゲームパートのタップの遅延周りは自分が対応していました。Android端末だと、タップしてからSEが鳴るまでに0.16秒ほどの遅延が生じていました。リズムゲームで大切なのは「音楽と譜面が一致していること」、そして「タップとタップSEのタイミングが一致していること」です。リリース当時はまず楽曲に合わせて譜面の再生を後ろにずらし(約0.1秒。ただし端末によってズレ方は変わるためアプリ起動時/イヤホン等外部機器接続時に自動的に再調整を行う仕組みとなっている)、その後のタップはADXの「低遅延モード」を用いて可能な限り遅延を少なくして再生を行っていました。低遅延モードとは、特に音声再生遅延が大きいAndroid端末で使用できる、遅延を改善する機能です。低遅延モードをONにすることで、実測値ではないですが元の0.16秒が約0.07秒程度まで短縮できていました。

Yisoch氏:そもそも、この「低遅延モード」が非常に価値的な機能であるために、iOS/Android向けにリズムゲームをつくるのであれば、ADXを使うことがほぼマストな状況です。これがないと、Android端末でのゲームプレイはかなり難しくなってしまいます。音素材側としても、波形の時点で可能な限り先頭の空白部分をなくすなどして、タップ動作から再生までのラグを縮める努力をしました。

――その後2021年7月に、スマートフォン向けの音声再生遅延を限りなくゼロに近づける機能として「SonicSYNC」がCRI・ミドルウェアからリリースされました。こちらを導入した経緯について教えてください。

Yisoch氏:SonicSYNC自体は、私の方がCRI・ミドルウェアの営業の方とお話をしていた時にご紹介いただきました。「今すぐ欲しい!」ということでクライアントチームにお願いして、検証をしてもらいました。それから一か月くらい後に、いつの間にか開発機で動いているのを見せていただいて、「あ、もうプレイできる状態なんだ」と驚きました。導入は非常にスムーズだったと思いますね。

大平氏:遅延があるという課題はチームとして認識していましたが、正直「やれるだけのことはやった」という状況で、これ以上の遅延の軽減は打つ手がない状態でした。SonicSYNCはまさに突破口になり得るもので、すぐに導入をさせていただきました。従来のADXと互換性があるためにコードも軽微な修正で済み、今までやっていた遅延対策はすべて撤廃し、SonicSYNCだけで全ての音を再生する仕組みに置き換えました。

――SonicSYNCを使用した際のファーストインプレッションについて教えてください。

大平氏:体感で遅延はほぼゼロ。Android端末は特に遅延が目立ちやすいのですが、Android端末でもiOSと変わらないくらい…というか、自分はずっとAndroidユーザーなので良く分かるのですが、本当に遅延が綺麗になくなったのは衝撃的でした。

Yisoch氏:SonicSYNCを使うことで、それまでに使用していた低遅延モードよりもさらに遅延が少なくなり、ほぼ違和感がなくなりました。もう一つ、サウンドデザインの面でも嬉しかったのが、AndroidでもiOSと同等のサウンド演出が可能になったことです。Android端末の遅延を改善する低遅延モードでは、機能の性質上、一部のエフェクトが使用できないなどの制限がありました。iOSの場合はエフェクトがかかっている状態で再生されていましたが、従来のAndroid端末だと、実はSEはドライな状態(何もエフェクトが掛かっていない状態)で再生されていたんです。リズムゲームとして、効果音と楽曲と触感が合わさって最高の体験になるようにデザインしているので、SonicSYNCを使うことで、意図したサウンドをストレートに伝えられるようになったことがとても大きな恩恵でした。

大平氏:一方において、「リズムゲームとしての体感は大きく変わるだろう」ということも事前に分かっていました。SonicSYNCを導入する段階では、本作は既に1年ほど運用していたため、ユーザーの皆さんは「今の遅延に慣れている」状態だったんですね。設定でタイミングを調整したり、場合によってはSEを消したりしてプレイしている方が多かった状態でした。

Yisoch氏:ですから、1周年の大型アップデートの一環として「音声遅延がなくなり、サウンドが劇的に改善する見込みです」と告知をした上で、実装をさせて頂きました。もともと遊んでいた時の感覚とのズレが発生してしまうとしても、遅延が少なくなることはユーザーの方へのメリットになり得るだろうという判断でした。「気持ちよくプレイできるようになった!」などのポジティブな反応が多かったので、そこは一安心でした。

――お話しを伺っていると、運用フェーズにおけるSonicSYNCの早期導入やSE制作における試行錯誤の回数の多さなど、開発側のフットワークが軽い点も魅力に感じました。開発における現場の風通しの良さを感じます。

大平氏:私たち自身も本作のユーザーであるため、自分たちが欲しい機能を自分たちが作って提案するような動きが活発です。例えば、最近追加された「試着機能」「バーチャルライブのスクリーンショット機能」は、開発者自らが「自分が欲しいから実装したい!」と言い出して、実際に1人で作ってしまったんです。あとはバーチャルライブエリアにボールが置いてあるのですが、あれも「暇つぶしになるよね」という現場の発想ベースで生まれた機能となっています。

Yisoch氏:そこからそのシリーズが発展して、鍵盤を踏んだ時に音が鳴るとか、噴水エリアの時計は実は1時間に1回時報が鳴るようになっているとか、待合エリアのBGMがインタラクティブに変化するような仕組みも「その方が待ち時間も楽しく過ごせるかな」と思って取り入れています。待合エリアで2DMVが再生されるようになりましたが、音の鳴らし方を工夫してライブ会場のような響き方にしたり、遠くでは聴こえないようにしたりと、いろいろとこだわっています。

――ありがとうございました。最後に、今後目指していく方向性や調整したいサウンド演出、ファンの方へのメッセージをお願いします。

大平氏:プレイの感覚やグラフィックスはもちろん重要ですが、その体験を何倍にも膨らませてくれるのはサウンドです。映像・プレイ感覚・サウンドの三位一体の体験の向上を追及して行きたいと考えています。特に、本作はサウンドとの親和性も高いので、ユーザーの皆さんも音を出して遊んでいただく方が多いと思います。待合エリアのちょっとした演出のようなものも含め、楽しい体験を今後も提供していきたいです。

Yisoch氏:本作は無事に1周年を迎えることができました。ボカロ文化がそうであるように、ユーザーの方から見た『プロセカ』のサウンドも、色々な解釈で楽しんでいただけるようになってきたのかなと思っています。本作の持つ世界観に合わせたサウンドはブレずに守っていきながら、目まぐるしく変わっていく世の中の音楽トレンドも咀嚼して取り入れていきたいです。

■SonicSYNC(ソニックシンク)について

スマートフォンで発生する、ユーザーが操作を行ってから音が鳴るまでの再生処理時間(遅延時間)を限りなくゼロにする機能です。特に音のレスポンスが重要となるリズムゲーム、アクションゲームにおいて、ユーザーのゲームプレイ快適度を大幅に向上します。
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