開発現場の声 – PS4 / XboxOne / STEAM『SOULCALIBUR Ⅵ』サウンドメイキング 後編- バンダイナムコスタジオ / ディンプス –
ステージの端では環境音が変わる?
矢野氏:このシリーズはリングアウト負けがあるので、ステージの端の方へ近づくと危険であることを知らせるため、風や足音の音量を上げる演出をIIの頃から行っています。
大島氏:他の格闘ゲームとかなり違うのはステージが大きいというところで、例えばこの神殿のステージであればカメラを引くと神殿が一望でき、その臨場感を表現しやすいと思いました。
格闘ゲームって格闘そのものの音に意識が行きがちだと思うんですけれども、そこで新しい表現ができないものかと挑戦をしておりました。
矢野氏:自分が気に入っているのが港町ステージで、端に行くと荒波の音が強調されて怖いんですよ。
バトル中は常に緊張感があるのですが、キャラクターの立っている場所が変わる事によって緊張の味わいが変わるのが面白いし、ADX2のAISACという機能のおかげで試行錯誤が出来ました。
ゲームの状況に合わせて音を変化させていくミドルウェアの機能の1つ。ゲーム中の何かの数値変化を音の変化要素として扱う事が可能なので
・何かに近づいたら音量バランスを変化させる
・音源との距離が離れていくのに音量が大きくなっていく
・遠く離れたら発音の優先度を下げる
などといった事ができる
矢野さんお気に入り、港町ステージの波音演出
演出のために嘘をつく
大島氏:AISACは特に背景周りで多用しており、代表的なものを挙げると、ステージの端に行った場合とか炎のオブジェクトが見えた時とか、距離に応じて音に変化をつけています。
普通、リアル系のゲームではカメラが引くと音は小さくなるはずですが、今作ではステージ全体が見えるほどカメラを引いた際にそのステージを象徴するような音を強調しました。
例えばこの神殿ステージでは目の前に滝が流れています。目の前なので本来は滝の音が聞こえるべきなんですけれど、カメラが近づいている=プレイヤーキャラ同士が近いのでキャラクターの音にフォーカスしていて、逆にカメラを引いた時は滝が象徴的な見た目になっているので、本当は滝から遠いんだけれど滝の音が聞こえるという、演出のためにあえて嘘をついています。
ーーキャラクター同士が離れないと気付かれない?
大島氏:BGMも好評なので気付かれにくい演出ですね。
中鶴氏:BGMの音量を下げてみると、よくわかりますよ(笑)
神殿ステージの滝演出(BGMオフ状態)
矢野氏:またステージの端を背にしたとき、背の音が聞こえないように調整してます。後ろの方で環境音が大きいとバトルの集中具合に影響が出るので、そこをうまくマスキングできていると思います。
大島氏:格闘ゲームは昨今のゲームと比べ音数が少ないと思われがちですが、実際はかなり発音してまして…その瞬間にどの音が聞こえるべきか交通整理をするのに役立っていますね。
矢野氏:環境音だけでなく、遠くで別のBGMが鳴っているなんていう演出もできましたね。AISACがあるおかげで新しいことに挑戦してみよう、っていう気持ちになるんですよね。
大島氏:プログラマーさんに色々なゲーム内での動きを『とりあえずAISACの変化パラメータとして紐付けておいて』というお願いをして、実際にそれを音の変化のトリガーとして使うかどうかは試行錯誤してから決める、という形で進めました。
また音の変化を実際のゲーム内で動かさずとも、編集ツール上でも確認が手軽に出来るので重宝しました。
距離による音の変化を、理論ではなく感覚的な調整として使えるのは良いですね。
矢野氏:現実の音のシミュレーションではなくて、感情を動かすためですから。
中鶴氏:SOULCALIBURは、自分がその世界に居る、っていう感覚を大事にしているので例えば足音が変わったら「あ、いま自分はステージの際でピンチだから向きを変えよう」とか考えるきっかけになる。
演出としてもゲームの機能としても両立しているのが良いなと思います。
…あんまり気づいてもらえないですけど(笑)
潜在的に「何かヤバいぞ」というのを感じてもらえたら良いなと。
矢野氏:サウンド演出の目標は「言葉にできないけど、なんか好き!」っていうところ。「ここが好き!」って具体的に言えるのは、まだお客さんを夢中に出来ていないのかも?と思います。それを実現するために、細かい音の変化を作り出せるAISACはいいですね。
AISAC、本当にいいですね..うまく言えないですが。
ーー変化が自然すぎて、このお話を伺うまで色々と気付きませんでした…
大島氏:それはある意味、狙い通りですね(笑)
気付かれないのがサウンドの腕の見せ所かなとも思っています。
ーーこれだけこだわっているのだからヘッドフォンしてプレイしていたら勝率が上がったとか
中鶴氏:そうなると面白いですよね。
足音だけで技がわかる?
矢野氏:キャラクターの重量に合わせて足音を変えて威圧感を出したりしていますね。
大島氏:足音や服の揺れものなどフォーリーと呼ばれる音に関してはシリーズ過去最大のリソース量だと思います。かなりこだわっているのでぜひ目を瞑って「今どの辺りを歩いているんだろう」とか試していただければ。
矢野氏:水たまりを歩くとき、楽しいよね。
大島氏:特に矢野さんからのオーダーで「踏み込む時に緊迫感が欲しい」というのが難しくて、目をつむって踏み込む瞬間にドキッとする音というのを表現するのに、ひたすら試行錯誤しました。
矢野氏:1ヶ月くらいやってましたね…踏み込み音って大事で、この音によってキャラクターの縄張りの範囲や強さを表現できるというのと、踏み込んだ音でどういう技が出たか認識できるので何度も強くお願いしました。
中鶴氏:最初の一歩目ですよね。踏み出した後は、通常の足音になります。
ーー技を出すときだけでなく、移動の時も音が違うんですね
足音の演出 (BGMはオフ状態)
水たまりの上を歩く音、後ろに下がる音、奥へ移動する音など細かな違いが見受けられます。
大島氏:ヒット音など記号になる音がゲームの核であるのは間違いないので、それを強調するためにも他の音をなるべく自然に鳴らす必要があって、細かくコントロールをするためにもAISACの数が非常に多くなりました。
矢野氏:(データを画面に映し、数えながら) グローバルAISACが…29。
大島氏:他に足音など、個々についているAISACもたくさんあるのでかなりの数になりますね。
キャラクタークリエイションのボイス調整について
矢野氏:Vでも御世話になったピッチシフトを使いました。
大島氏:ピッチシフトは音程のみが変わるものと、音程だけでなく早さと音質まで変わる2種類があるのでどちらの音質が良いのかチェックを始めましたが、結局クリエイションの幅が広がるということで、どちらも採用となりました。
中鶴氏:この手の機能ってサウンドデザイナー目線ではどうしても音質が良い方を選びがちなんですけれど、プレイヤーさんには変化が明確であったり面白い方がより喜ばれるんだなと改めて感じました。
他言語の対応について
矢野氏:言語切り替えの機能も非常に役に立ちました。日本語の波形データを登録すれば英語も自動的に登録されるというのは良いですね。
中鶴氏:各言語ごとに10000弱くらいずつあるので、管理のために役に立ちました。
大島氏:工数も減り、ヒューマンエラーも無くなり助かりました。
BGMについて
矢野氏:BGMは複数トラック持っていて、ステージの中でカメラが上下する際にリズムパートのバランスを変えています。
ナイトメアのステージは奥の方で炎が発生するのですが、ラウンドが進むと燃え方が激しくなり、それに合わせてリズムの音量を上げたりしています。
中鶴氏:炎の音が大きくなるんですけど、背景が盛り上がってるのに曲がそのままなのもバランスがよくないので、それに追従する形でバランスを取っています。ほとんど誰も気が付かないですけど…(笑)
パートの構成としては大まかに分けて、リズムとそれ以外、加えて何か特別な盛り上げ要素があった場合はそれも分けています。
大島氏:ステージの曲によってトラック数も違えば、何をトリガーに何を変化させるかも違ったので、色々なところにAISACのトリガーを用意しておいてもらって、後からサウンド担当者だけで試行錯誤し演出を作り込んでいく、というのができて非常に便利でした。
矢野氏:今後配信予定のBGMにもこういった表現を取り入れているので、ぜひ楽しみにしていてください。
リバーサルエッジについて
矢野氏:リバーサルエッジでもBGMのボリュームを変化させて空気感を変えています。
この演出がSOULCALIBURの中でも一番こだわったところでもあり、ADX2が大活躍したところでもあります。
大島氏:本作の目玉とも言える演出なんですけれども、ADX2の大体の機能を使ったんじゃないかと思います。
みなさんのこだわりの集大成、リバーサルエッジ演出をまとめました。
矢野氏:(演出を何度か繰り返しながら)ここディレイ使ってますよね? ディストーションも フランジャーも エコーも使ってますよね? REACTもAISACも使ってますね?
大島氏:全部使ってますね。
ーーどのステージもこんな感じにリズムが増えるのでしょうか?
中鶴氏:もともと入っているパートが強調される場合もありますし、何か特別な要素が足される場合もあります。
矢野氏:砂漠ステージではメロディーとハーモニーのトラックを完全に消してしまってストイックさと激しさを出すようにしたり、曲によってバランス変えていますね。
中鶴氏:それぞれの曲でどのような変化をさせるとわかりやすく、かつ感情が盛り上げるかを検討しました。
あの瞬間ってビジュアル的にも通常の状態じゃないわけで、どっちが勝つか分からないという緊迫感を音で出すために、ありとあらゆる事をやって「今までの状態とは違う状態ですよ」というのを伝える工夫をしました。
矢野氏:前作Vの頃は、レンダリング済みの音を組み込む手法が現実的でしたが、今回はリアルタイムにエフェクトを掛けられていますね。
大島氏:ご覧いただくとわかるのですが、演出中はスローモーションなんですね。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
最後は雑談を交えつつ
「最近はゲームのサウンド制作ってゲーム会社に所属していなくてもできたりするけど、これだけこだわった事をやろうとすると中々難しい。これを読んだ皆さんがゲーム会社を受けに来たくなると良いですね。」
といった話でインタビューを終えました。
お話を伺った皆さま、ここまで読んでくださった皆さま、ありがとうございました!
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